本研究は、運動時の体温上昇機構と運動習慣に伴う安静時の体温上昇機構を行動性体温調節反応の面から探ることを試みた。 ヒトの運動時行動性体温調節反応の測定実験では、人工機構室内の環境温度を被験者自身室内において温度設定ダイヤルを随意に変えられるように設定し、安静時、運動時、下腿温浴負荷時及びインフルエンザによる発熱時に深部体温(直腸温)と平均皮膚温から算出された平均体温をどのような方向に調節するよう環境温度を選択するのかを比較検討した。その結果、選択した環境温度は発熱時>安静時≧運動時≧下腿温浴時となった。また、運動時はその強度に比例して低い温度を選択する傾向を示した。各条件における実験終了時の平均体温は発熱時≧運動時>安静時=下腿温浴時となった。以上の結果から、平均体温は生体温度情報量とみなすと、本案験から運動時には発熱時と同様に体温のセットポイントの上昇によって体温が上昇していることが示唆された。 運動習慣による安静時体温上昇機構の研究には雌ラットを用い、行動性体温調節反応の測定にはサーマルグラディエントチャンバーを用い、自発回転ケージ走を行わせた場合と行わせなかった場合の深部体温、選択環境温度の測定を行った。ラットにおいて自発回転走運動量に個体差があり、運動量が多いラットほど安静時の体温は高くなることが示された。運動量の多いラットでは、行動テストにおいて回転運動を行わせている時には行わせていない時と比してより高い環境温度を選択し、高体温を維持した。また、寒冷暴露(10℃)をしても運動によって上昇した安静時の体温水準には影響を及ぼさなかった。以上の結果から、運動習慣により安静時の体温水準が高くなることは再確認され、またその上昇機構は生体の積極的な変動であることが示唆された。さらに、今後はその意味付けを検討することが必要と考えている。
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