研究概要 |
ヒトにおける体温調節能には,暑熱反応と寒冷反応があり,これらの暑熱・寒冷曝露がヒトの体温調節能に与える影響に関する研究は,ヒトにおいて交感神経活動を介して行われたものとしては殆ど行われていない.本研究に置いては,ヒトにおいて汗腺・皮膚血管支配の交感神経活動である皮膚交感神経活動をmicroneurographyにて直接観察し,特に寒冷曝露時における核温と皮膚交感神経活動中の血管収縮神経活動との関係を時系列的に解析した.研究の目的と内容に関する詳細な説明を受けた後,被験者となることを承諾した健康成人10名(年齢18〜29歳)を対象として実験を行った.被験者を人工気候室内に仰臥位にさせ,脛骨神経および腓骨神経から先端直径1μm,インピーダンス 3〜5MΩのタングステン微小電極を刺入し,皮膚交感神経活動を同定,記録した.同時に指尖および趾尖の皮膚温,手掌,手背,足底,足背の皮膚血流量をレーザードップラー法による皮膚血流量計,カプセル換気法による発汗量,手掌・足底の皮膚電位変化,血圧,核温としての鼓膜温を記録し,データレコーダーに収録した.片側足底部の局所加温により,局所加温時の神経性入力と対流性入力を増加させ,核温と皮膚交感神経活動との関係を解析した.その結果,皮膚交感神経活動の抑制とともに,皮膚血流量の増加が観察され,しばらくして核温の低下がみられた.加温30分後に皮膚交感神経活動の著明な賦活化が起き,核温の低下は停止した.この皮膚交感神経活動の抑制能と核温低下との間には有意な正の相関が成立し,またこの核温低下の著しい被験者ほど,30分後の皮膚交感神経活動の賦活化が著明に起きることが判明した.局所加温時には,神経性入力が優位となり放熱の促進により核温の低下が起きるが,この低下により再度皮膚交感神経活動の賦活化が起きる.これらの変化には交感神経活動の個体差が大きく影響することが推測された.
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