出産直前の妊娠動物では発熱が起こりにくい事が知られている。実験的に外因性或いは内因性発熱物質を出産直前のヒツジ、ギニピッグ、ラットに投与しても、発熱は起こらない。発熱は発熱物質が脳内でプロスタグランジン(PG)Eの産生を促進し、そのPGEを体温調節系の神経細胞が受容し、体温調節遠心路を介して末梢器官で熱産生を促進し、かつ熱放散を抑制することによって起こる。しかし、妊娠末期の動物で、これらの発熱発現過程のどの段階が抑制されるのかは明らかとされていない。そこで本研究では、妊娠ラットをモデルとして、妊娠末期におこる発熱抑制が発熱過程のどの段階に原因があるのかを明らかにする目的で研究を行った。 妊娠末期のラットにLPSを投与したが、発熱が抑制された。その時の脳脊髄液中のPGE_2を測定すると、LPSによる増加が非妊娠ラットと比べて少なかった。さらに、PCE_2合成に関与するシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)の視束前野及びその近傍のくも膜下腔での発現を調べたところ、LPSにより誘導されたCOX-2陽性細胞の数が非妊娠ラットの場合と比べて有意に減少していた。 また妊娠ラットでは、細菌性発熱の減弱反応と同様に、カラゲニン皮下注射による炎症性発熱も抑制された。この時の妊娠ラットの脳脊髄液中のPGE_2の増加は非妊娠ラットと比べて少なかった。 一方、妊娠ラットと非妊娠ラットの脳内PGE_2受容体の密度には差は認められなかった。妊娠ラットの脳内にPGE_2を投与すると発熱が起きることを考え合わせると、PGE_2受容体以降には妊娠、非妊娠ラットで差がないことが明らかとなった。従って、妊娠末期ラットにおける発熱反応の減弱はPG産生系の抑制が関与しているといえる。
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