研究概要 |
生物時計の分子機構は,いくつかの遺伝子発現とその産物がお互いに時間遅れを持ちつつ,抑制しあっていることが基本的なメカニズムあると予想されている.しかし,その具体的な連鎖の形は,まだ明らかではない.そこで,マウス,ラットの視交叉上核での生物時計機構を検討するために,生物時計遺伝子の一つであると目されるPeriod1遺伝子を過剰発現するトランスジェニックラットを東大医科研の程先生との共同研究で作成し,その遺伝子発現と行動のリズムを測定した.その結果, 1)神経特異的なプロモーターにPeriod1遺伝子をつないだ動物では脳だけに,どの細胞でも働いているプロモーターにつないだ動物では全身に,Period1mRNAの発現が高くなっていた. 2)そのような動物ではPeriod2の遺伝子発現が逆に下がっていることが見つかった. 3)Clock,BMal1,Cry1,Cry2の4つの時計遺伝子について視交叉上核の発現を調べたが,特別著しい異常は見られなかった. 4)行動リズムの自由継続周期がバックグラウンドの動物に比べて有意に長くなっていた.それらはPeriod1遺伝子のコピー数が多いほど自由継続周期が長かった. 5)その上,明暗条件下においても,明期が200ルックスでは同調しなかった.しかしながら,点灯,点滅には反応し,相対同調(relative coordination)も示しているので,環境の光を感じなくなっているのではなかった. これらの結果からPeriod1遺伝子は生物時計の分子機構のリズム生成機構に関わっているとともに,光に対する入力機構にも関与していることが示唆された.
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