月経前緊張症(PMS)の脳内メカニズムを調べるために、ヒトおよび動物を用いて実験を行った。ヒトでは、異なる振動体によって制御されている睡眠覚醒リズムと深部体温リズムを同時に40日間測定した。PMSを示さない女性はすべて、睡眠覚醒リズムも深部体温リズムも一定であり、月経周期に伴う深部体温の変動は見られなかった。ところが、PMSを示す女性のうち2例では、卵胞期に持続的な位相前進が、黄体期には持続的な位相後退が見られた。別の3例では、排卵、月経に伴い位相の急激な変化が見られ、そのうち2例では、卵胞期には4時間の位相前進が、黄体期には4時間の位相後退が見られ、残りの1例では、卵胞期には4時間の位相後退が、黄体期には4時間の位相前進が見られた。また、別の2例では、睡眠リズムは一定であるのに、卵胞期、黄体期に関わらず、持続的な位相前進(自由継続リズム)を示した。以上のことから、ヒトでは、一般的に卵巣ステロイドホルモン(エストロジェン、プロジェステロン)によるサーカディアンリズムの変動は抑制されているが、PMSでは、その抑制が障害され、月経周期に伴うサーカディアンリズムの変化が現れると解釈することができた。一方、実験動物であるラットの場合、エストロジェンが位相前進をもたらしたり、プロジェステロンが二つの異なる振動体の同期を障害したするのでPMSの疾患モデルとなりうる。そこで、卵巣摘除ラットにエストロジェンを投与したところ、生物時計の存在する視交叉上核のギャップ結合蛋白の遺伝子発現が抑制された。かくて、プロジェステロンの同期抑制作用がPMSの病態に何らかの役割を果たしている可能性が示唆された
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