ラットにおいて、活動量のサーカディアンリズムはエスとロジェンの高い時期に位相前進、プロジェステロンの高い時期に位相後退を示し、性周期に伴って変動する。そこで、ヒトでは月経周期に伴いサーカディアンリズムが変動するのかどうか調べるために、健常女性6例、月経前緊張症(PMS)を示す女性6例の睡眠覚醒腸温のサーカディアンリズムを一月経周期調べた。また、卵胞期(エストロジェンの高い時期)、黄体期(プロジェステロンの高い時期)のメラトニンのサーカディアンリズムも調べた。その結果、健常女性群、PMS群において、睡眠覚醒と直腸温のサーカディアンリズムは月経周期に伴って変動を示さないことが分かった。しかし、PMS群において、メラトニンリズムのオンセットは黄体期には約1時間の位相後退を示した。従って、ラットで見られるような性周期に伴うサーカディアンリズム変動は、ヒトでは、睡眠や直腸温リズムに関しては完全に抑制されているが、メラトニンリズムに関してはその抑制が弱いことが分かった。一方、PMSを示す一例においては、睡眠、直腸温、メラトニンの全てのサーカディアンリズムが卵胞期に持続的前進を示し、黄体期に持続的後退を示した。よって、この一例は「月経周期に伴うサーカディアンリズムの変動」の抑制メカニズムが障害されていることが分かった。これまで、このような睡眠障害を示す症例は報告されていなかったので、交代性位相変位症候群(APPS)と名付け、論文として報告した。この疾患メカニズムを明らかにするために、卵巣摘除ラットにエストロジェンを投与したところ、生物時計中枢である視交叉上核(SCN)において、ニューロン間のギャップ結合遺伝子(Connexin 32)の発現が上昇した。一方、ギャップ結合はSNCのニューロン間の同期に関与することを示した。従って、この疾患メカニズムとして、SCNニューロンの同期障害が考えられた。
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