研究概要 |
今年度は主として顔面各部位の発汗量と皮膚血流量の温度特性を解析し,部位差の機序や皮膚血流調節機構との関連を検討した。1.暑熱負荷に対する顔面の発汗応答:健康な若年者において,室温を30〜45℃まで漸次上昇(相対湿度40%)させながら,前額,頬,頸部と前腕で局所発汗量と皮膚血流量を測定した。どの部位も発汗量は平均体温と直線相関があったが,発汗量が多い部位ほど回帰直線の勾配は急になり,発汗発現閾値は低くなる傾向があった。勾配をくらべると9例中6例で前額がもっとも高く,7例で頬は0であった。一方,皮膚血流量は,中性温下では頬が平均的に多く,ついで前額,頸部の順で,その温度特性は,いずれも平均体温の上昇により初期には緩く上昇し,ある時点で急増する傾向が見られた。部位間の差は平行移動の関係を示した。血流の急増点は,発汗の発現時の体温とは一致しなかった。以上,発汗特性は顔面でも体幹・四肢部と似ていたが,皮膚血流のそれは大きく異なること,また顔面皮膚血流の特性は発汗との類似性が乏しいことから,顔面皮膚の血管拡張は体幹・四肢の有毛部で仮定されている(おそらく発汗神経を介する)能動性血管拡張の機序とは異なるものによっていることが示唆された。2.アセチルコリンに対する反応性の部位差:Iontophoresis法(QSART)により顔面汗腺のアセチルコリンAChに対する反応性を検討した。反応性は,前腕にくらべて頬では小さく,前腕ではさらに小さかった。前額では,暑熱下での発汗が多かったにもかかわらず,QSARTでのAChに対する反応性が小さかったのは,皮膚血流の差によると説明され,前額汗腺の血流依存性が大きいことが推測された。3.軸索反射性発汗の部位差:QSART法による軸索反射性発汗は,前腕にくらべて頬で著しく高進し,前額では減少していた。その機序,生理学的意義は不明である。
|