研究概要 |
顔面の発汗は温熱性発汗に属するが,暑熱負荷に対する発汗特性は躯幹・四肢とくらべてきわめて特異的である。また,顔面では皮膚血流も躯幹・四肢とは異なる反応を示すことが知られている。顔面がこのような特異な熱放散の調節機構をもつことの生理学的意義は明らかではない。これまでの知識を一元的に統合し顔面発汗や皮膚血流の生理学意義や神経機構に関する理論を確立するのが本研究の目的である。昨年度は,顔面諸部位の発汗量と皮膚血流の温度特性,神経伝達物質に対する反応性,発汗神経軸索機能などの部位差を検討した。今年度は次の諸点を明らかにした。(1)前額では暑熱負荷による発汗能が高いにもかかわらずアセチルコリンに対する反応性が低いことを昨年報告した。今年度は生理的な血管拡張物質であるVIPを投与後温熱負荷を加えて同部の発汗量を測定したが,発汗量は増大しなかった。これにより,前額部汗腺の活動性が皮膚血流に依存するものではないことが明らかとなった。(2)頬部では温熱刺激に対する発汗能はきわめて低いがアセチルコリンに対する反応は前額部と同程度であることを昨年度報告した。今年はこの部位の個々の汗腺の汗拍出活動をビデオマイクロスコープにより直接観察した。該当部には通常の密度で汗腺の存在が確認されたが,汗の拍出は少なかった。このことから,頬部汗腺はおそらく汗腺自体の特性によりその多くが不能動化または低能動化されていることが示唆された。(3)顔面神経に汗腺支配の遠心性線維が存在するか否かを検討するため,微小電極を用いて茎乳突孔出口あるいは耳下腺神経叢部分の顔面神経束をねらって電極を刺入し自律神経活動の導出を試みた。数人の被験者により多数回試みたがこの部分からは交感神経活動類似の神経活動は記録できなかった。これは,顔面神経束には遠心性自律神経活動は存在しないことを示唆するが,電極が目的の神経束を捉えていない可能性も残されており,結論には至らなかった。いずれにせよ顔面部での交感神経活動記録は,手技の開発と十分な経験が必要であり,さらに検討を続けたい。
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