本研究の目的を達成するためには、(A)3つの異なる筋繊維別の代謝が分離・定量できるように、ヒト骨格筋のin vivo ^<31>P NMR測定において高い感度と分解能が確保されていること、(B)多次元の校正を柔軟に行うことができるMg^<2+>濃度計算プログラムを開発すること、が必要である。以上を踏まえ、平成11年度は、疲労に至る運動中の筋繊維型別ATP濃度とMg^<2+>濃度のNMRによる測定を行った。 (1)被験者に高頻度で負荷に抗する足底の底屈運動を行わせ、下腿三頭筋を1分程度で疲労に至らせながら、高時間分解能(10秒毎に)かつ高スペクトル分解能のin vivo ^<31>P NMRスペクトルを得た。 (2)ヒト骨格筋のin vivo ^<31>PスペクトルのPi共鳴線の線型を最小自乗法を用いてコンピュータ解析し、pHの差に基づき3つの型の筋繊維由来の成分に分離した。この値とMg^<2+>濃度の推定値から予測できる共鳴周波数の上限・下限、および安静時測定から得られたNMR信号波形パラメータを使って適宜推定の自由度を拘束し、ATP共鳴線を各pH成分に分離した。こうして3種類の筋繊維各々におけるATP信号強度と共鳴周波数を求めた。 今後、各筋繊維型について求めたATPの3つのリンの共鳴周波数と前年度に開発したコンピュータプログラムとから3種類の筋繊維各々におけるMg^<2+>濃度を求め、さらに各筋繊維型におけるATP濃度とMg^<2+>濃度の時間変化を、対応する筋運動出力の変化と比較し、Mg^<2+>による興奮・収縮連関系の阻害仮説の可否について検討する予定である。
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