燐脂質は細胞膜を構成する成分の中で重要であるが、虚血・再灌流時にこの代謝産物であるリゾ燐脂質の増加が認められる。リゾ燐脂質は不整脈を引き起こすが、病態生理下において心筋イオンチャネルにどの様に作用するのか、未だ明かではない点が多い。そこで本研究では心臓のポンプ機能にとって重要な心室筋のカルシウム電流に、リゾ燐脂質がどのような作用をしめすのか、また虚血・再灌流時におきるpH低下という現象がその作用に、どのような影響を与えるのか検討を加えた。 雌モルモット(体重300-600g)の心臓にランゲンドルフ法を用いて酵素処理をおこない、単離心室筋細胞を得、この細胞を用いてwhole cell clamp法にて電位固定の実験をおこなった。実験条件として細胞内の遊離カルシウム濃度はカルシウム-EGTA緩衝液で生理的な濃度である10^<-8>Mに調節した。また細胞外液は加温して35-37℃に保った。 実験結果として、1.pHが生理的条件下およびpH低下時でもリゾ燐脂質はカルシウム電流を抑制する、2.細胞内外のpHを低下させた時、カルシウム電流のリゾ燐脂質に対する感受性が増大する、3.生理的なpHではリゾ燐脂質によりカルシウム電流の活性化および不活性化曲線は変化しないが、pH低下時ではこれらの曲線は左方に移動する、ことが得られた。 上記の結果より考察すると、1.水素イオンはカルシウム電流に対するリゾ燐脂質の抑制作用を増加させ、2.リゾ燐脂質は細胞膜内側の水素イオンに村する感受性を増加させるか、細胞膜外側の水素イオンの感受牲を減少させることが明らかとなった。
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