研究概要 |
本研究において、申請者は屠殺直後のブタ標本から細胞を急性単離する方法を新たに開発し、活動電位およびイオン電流を記録することに成功した。本年度は、以下のような新たな知見を得た。 1)単離ブタ洞房結節細胞の拍動数は1分当たり80回であり、生体の心拍数と同程度のものであった。これは、ウサギ(約200/分)に比して優位に遅く、種固有の心拍数が洞房結節細胞の自動能に由来することを示唆する。イオン電流の解析では、従来ウサギ標本で記録されているCa電流、遅延整流K電流、過分極誘発カチオン電流、Na/Kポンプ電流、Ach感受性K電流、持続性内向き電流、等いずれもブタ標本に存在することが確認された。 2)このうち、遅延整流K電流はウサギのものと性質を異にしており、ウサギがIkr主体であるのに,ブタでは活性化のより緩やかなIksよりことがわかった。このことが、ブタ標本の比較的遅い心拍リズムの一因ではないかと推測された。 3)過分極誘発陽イオン電流は、ウサギ標本とほぼ同じキネティクス、イオン透過性を有しており、しかも活性化の閾値が最大過分極電位よりも電位側にあることから、ぺースメーカー機転への関与は非常に小さいと考えられた。 4)ブタ標本の遅延整流K電流は、chromanol誘導体293Bにより特異的に阻害される。この抑制作用はchromanol 293Bがオープンチャネルブロッカーとして作用することによることが判明した。しかも、ブロックの速度定数は他のイオンチャネルブロックで知られているものに比し、比較的遅い(数秒)ことが明らかとなった。
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