従来、神経伝達物質の主要な放出機構として考えられてきたのは神経終末におけるシナプス小胞膜と形質膜の融合を介した開口放出であり、その過程にはカルシウムの神経終末への流入が必要である.しかし近年、GABAやグルタミン酸を含むアミノ酸伝達物質やカテコールアミン、セロトニンなどでトランスポータの逆回転(transporter reversal)によると思われるカルシウム非依存性で非小胞性の伝達物質放出機構の存在が報告されている.そこで、新生ラット摘出脊髄標本を用いてペプチド性伝達物質であるサブスタンスPや一酸化窒素(NO)あるいはその関連代謝産物によるアミノ酸の放出誘発作用を比較検討し、その作用がトランスポータの逆回転による可能性を検討した. まず、サブスタンスP(10μM)を灌流適用によって新生ラット脊髄に適用すると、グルタミン酸、アスパラギン酸、GABA、グリシン、タウリンが静止時に比べて放出量が有意に増加した.NO供与体であるSNAP(300μM)、SIN-1(300μM)によっても同様にアミノ酸が放出された.次にカルシウム除去液でサブスタンスPの作用をみると、それらのアミノ酸の放出量に有意な変化はなかった.それに対して低ナトリウム液の灌流適用によって放出量が有意に抑えられた.低クロライド液の灌流適用によってはGABA、グリシン、タウリンの放出量が有意に抑えられた.またGABAのトランスポータ阻害薬によりGABAの放出量は抑制された.同様の現象がSNAPやSIN-1のアミノ酸放出作用に対しても観察された. 以上のことより、サブスタンスP、およびNOあるいはその関連代謝産物が新生ラット摘出脊髄標本からアミノ酸の放出を誘発し、その機構がトランスポータの逆回転によるものであることが示唆された.
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