研究概要 |
本年度は、癌細胞におけるendothelin(ET)のシグナル伝達機構を研究し、ET-1はヒトメラノーマ細胞A375にアポトーシスを誘導することを見い出した。この効果は、double thymidine blockにより細胞をG1/S境界期に同期した時に最も顕著に認められ、癌抑制遺伝子p53の発現亢進(ubiquitin経路での分解の低下)とその核内移行を伴う。この時、生き残った細胞の細胞周期の進展は変化しないが、明らかな形態変化をきたした。蛍光標識ET-1を用いたflow cytometryにより、G1/S境界期に同期した細胞ではETB発現量が非同期の細胞の5倍以上に増加していた。そこで、非同期の細胞にETBcDNAをマイクロインジェクションし、ETB発現量を増加させたところ、G1/S境界期に同期した細胞と同様の反応(アポトーシスまたは形態変化)が認められた。これらの結果は、ETB活性化により、p53の誘導を伴いアポトーシスに到るシグナル伝達系が動員されることを示している。またこのシグナル伝達系の動員には、細胞一個あたりのETB受容体数がthresholdとなっており、細胞周期のある一定の時期にのみ活性化されるらしい。G蛋白質共役型受容体の活性化により培養細胞にアポトーシスが誘導される現象は、angiotensin II receptor type 2,somatostatin receptor type 3ですでに報告があり、ETBは3番目の例である。また、細胞ひとつひとつの受容体発現量により、同じ濃度のリガンドに対する分化、増殖といった反応が異なってくる例は、epidermal growth factor受容体などで知られているが、G蛋白質共役型受容体については、これが初めての例であると思われる。本研究では、さらに、細胞一個あたりのETB3発現量が細胞周期依存性に変化することが示されており、細胞周期による細胞の反応性の変化にひとつの説明を与えた。
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