研究概要 |
イヌ脳底動脈において伸展刺激による張力発生とミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化との関係について検討した。テトラエチルアンモニウム(5mM)存在下、緩徐伸展刺激を1mm/secで初期長の1.5倍に15分間与えると、収縮を伴わずにミオシン軽鎖(MLC)の複数のリン酸化体(少なくとも1,2および3リン酸化体)が増加し、張力とMLCのリン酸化との間に乖離が認められた。また、緩徐伸展はプロテインキナーゼC(PKC)αおよびδの細胞質から膜フラクションへのトランスロケーションを惹起した。MLCのリン酸化はカルシウム拮抗薬のニカルジピンおよびミオシン軽鎖キナーゼ阻害薬のML-9またはプロテインキナーゼC(PKC)阻害薬のカルホスチンCにより薬物未処置の血管におけるリン酸化の約50%に抑制された。Rhoキナーゼ阻害薬のY-27632はMLCのリン酸化をほぼ完全に抑制した。一方、PKCδの特異的阻害薬ロトレリン(5μM)はMLCのリン酸化に影響を与えなかった。PKCαのトランスロケーションはカルホスチンCのみにより抑制されたが、PKCδのトランスロケーションはカルホスチンC、ロトレリンおよびY-27632により抑制された。更に、フォスファターゼ阻害薬のオカダ酸(OA)により80mM KClによる収縮は抑制されたが、MLCのリン酸化量は高いレベルが維持されていた。また、OAによる電気泳動パターンは伸展時のものと類似していた。 以上の結果より、伸展刺激による張力発生とMLCのリン酸化との乖離にRhoを介するミオシンフォスファターゼの抑制およびPKCδ以外のPKCが関与する可能性が示唆された。
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