糖尿病や動脈硬化症などにおける腎障害や血管障害の発生には活性酵素やフリーラジカルが関与していることが明らかにされている。しかし、このメカニズムについては、未だ不明な点も多い。これらの活性種は、蛋白質、膜脂質、DNAなどに結合したり、様々な遺伝子を誘導したり、さらにはアポトーシスを誘導することが知られている。シトクロムP450(P450)は-原子酸素添加酵素で、NADPH-P450還元酵素を介して、NADPHから電子を受け取り、基質を酸化する酵素である。P450は誘導性の酵素で、薬物投与や病態時においてその量が大きく変動する。そしてまた、この酵素は活性酵素を生成することも明らかにされており、酵素誘導によって、多くの活性酸素を発生することが報告されている。今回はこのP450が関与していると考えられる細胞障害発生過程のメカニズムについて検討した。今回の検討で、ラットにフェノバルビタール(PB)を投与すると、肝臓においてP450の誘導に伴って、活性酸素の生成量が増加し、癌遺伝子であるc-mycが誘導され、活性酸素の生成が様々な遺伝子も誘導していることが示された。さらにまた、DNAの酸化マーカーである8-OHdGの増加やアポトーシスによるゲノムの断片化が見られた。さらに、これらの変化はP450の阻害剤であるケトコナゾールによって抑制された。また虚血モデルとして肝癌細胞(Hep 3B)及びラット血管平滑筋の初代培養細胞を用いて、酸素濃度の変化による遺伝子の誘導を検討した。酸素濃度を20%から1%に低下させると、その過程で活性酸素が発生することを見いだした。さらに、これまで報告されているように、虚血性の細胞障害で誘導されてくるヘムオキシゲナーゼなどの酵素の誘導も確認された。一方、この誘導はNADPHの競合阻害剤であるDPICによって阻害された。これらの結果からP450から生成する活性酸素が遺伝子発現に寄与している可能性が明らかにされた。
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