本研究の目的は、家族性アルツハイマー病変異体が誘導する細胞死、とりわけ神経細胞死を抑制する生理活性物質を見い出すことである。初期の計画では、その手段として、1996年に作成した2つの系(V642I-APPをCOS-NK1細胞とF11細胞に一過性導入する系)を用いて胎児血清から精製する方針であったが、第一に、一過性導入では遺伝子の細胞死誘導効率が導入効率に直接影響されること、第2に、一回の導入の単価が高価であること等の為に、一過性導入では同定を進めることが困難であることが判明した。そこで、まず、V642I-APPを誘導性に発現するF11細胞の樹立を試み、様々な誘導系につき試行錯誤の後、エクダイソンによる誘導系を確立した。この系では、エクダイソン処理によってV642I-APPが発現し、それと共に72時間以内にほぼすべての細胞が死滅する。次に、細胞死拮抗活性は血清のロットにより大きくばらつくことが判明した。この為、同定の為の基本方針を根本的に転換し、私達独自の発現遺伝子クローニングを開発することにした。更に、予備的検討から、用いるライブラリーに独創的アイデァを加えた。現在数十個の独立した拮抗遺伝子クローンが得られ、それらが、(1)他のアルツハイマー病遺伝子やAβの誘導する神経細胞死に拮抗するか否か、(2)細胞内ではなく細胞外蛋白として作用するものはないか、(3)化学合成可能なサイズの分子はないか、等の検討を急いでいる。
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