非ペプチド性δ受容体作動薬の光学活性体である(-)および(+)TAN-67の数種薬理作用について検討した。(-)TAN-67の全身、脳室内投与のいずれにおいても自発運動促進作用は全く観察されなかった。また、(-)TAN-67の身体依存性について注射法を用いて検討したが、(-)TAN-67の慢性投与後、非選択的オピオイド受容体拮抗薬ナロキソンを投与しても、モルヒネ慢性投与後に見られるような退薬症候は全く観察されなかった。さらに、ラットの側坐核にプローブを植え込み、遊離されるドパミン量をマイクロダイアリシス法により測定したが、(-)TAN-67の皮下投与ではコントロール群と比較して、その遊離量に有意な変化は認められなかった。一方、(+)TAN-67も(-)TAN-67と同様に、自発運動促進作用、ナロキソン誘発退薬症候ならびにドパミン遊離促進作用のいずれも引き起こさなかった。一方、(-)TAN-67の脳室内および髄腔内投与ではδ受容体を介した鎮痛作用を発現すること、また(+)TAN-67を髄腔内投与すると著明な侵害反応が誘発されることを明らかにした。これらの結果より、TAN-67は血液脳関門の膜透過性が悪いこと、また中枢移行後もドパミン神経系の活性化作用が弱い可能性が示唆される。また、(+)TAN-67誘発侵害反応はδおよびκ受容体作動薬ならびにδ受容体拮抗薬により抑制され、μ受容体作動薬では全く抑制されないことを明らかにした。さらに、(+)TAN-67誘発侵害反応が選択的プロテインキナーゼC(PKC)阻害薬により抑制されること、ならびに脊髄への単回投与によってPKCγのタンパク量が選択的に増加することを見いだした。これらの結果より、(+)TAN-67誘発侵害反応は脊髄のおそらくδ受容体に対する逆作動活性を伴ったPKC依存性の侵害反応を誘発することが示唆され、脊髄の疼痛機構を解明するうえで非常に有用な新規疼痛動物モデルであると考えられる。
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