各種実験的高血圧モデルラットを用いて、高血圧の発症と進展におよぼすエンドセリン(ET)拮抗薬の影響を調べたところ、deoxycorticosterone acetate(DOCA)食塩高血圧ラットにおいてもっとも顕著な抑制効果が観察されたので、本高血圧モデルにおいてみられる高血圧性腎障害におけるETの役割について検討した。DOCA食塩飼育開始2週間後より非ペプチド性ET_A受容体拮抗薬ABT-627およびET_B受容体拮抗薬A-192621を用いて1日2回の経口投与を行い、全身血圧、腎機能パラメーターを測定した。また薬物投与開始2週聞後(DOCA食塩飼育開始4週間後)、心肥大、血管肥厚並びに腎組織障害について比較検討を行った。その結果、ABT-627はDOCA食塩による高血圧の進展と腎機能低下をほぼ完全に抑制するととに、心肥大、血管肥厚パラメーターについても有意に改善した。またDOCA食塩処置でみられた糸球体、尿細管および腎小動脈障害はABT-627処置群ではほとんど認められなかった。一方A-192621投与群では、高血圧の進展に影響はなかったが、腎機能低下と腎組織障害は明らかに悪化し、中膜血管肥厚および心肥大の亢進が認められるとともに、死亡例もみられた。したがって、本高血圧モデルにおける腎障害の病態発症、進展にET_A受容体を介する作用が密接に関与する一方、ET_B受容体系はむしろ防御的に働く可能性が強く示唆された。 また、DOCA食塩高血圧ラットの腸間膜動脈ではノルエピネフリン(NE)による収縮作用が有意に増強されていることを見出したので、この増強作用に対するET受容体拮抗薬の影響を調べたところ、NE収縮の増大はET_B受容体拮抗薬により正常ラットのレベルまで低下した。したがって、DOCA食塩高血圧ラットの腸間膜動脈では、局所で産生亢進されたET-1によりNEに対する血管反応性が亢進していること、またこの内因性ET-1によるNE収縮反応の亢進はET_B受容体を介した作用であり、この作用にプロテインキナーゼCが関与することも認めた。
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