研究概要 |
生体内での肝臓の主要な働きとして血中からの内因性、外因性物質の体循環からの取り込みによる排除がある。この取り込み機構は胆汁酸、各種薬物を含む有機アニオンとある種の有機カチオンの排出にも深く関与している。胆汁酸の取り込みのうち、タウロコール酸は主にナトリウム依存性のトランスポーター(Ntcp)によって輸送されるが、他の胆汁酸はナトリウム非依存性の輸送によって取り込まれる。このナトリウム非依存性輸送の基質認識性は広く、抱合型ステロイド、心多糖類、抗生剤、高脂血症薬等の主要な輸送経路となっている。上記のように今日まで我々を含めた幾つかのグループによりラットのナトリウム非依存性の有機アニオントランスポーター(oatp)遺伝子群が単離された。またヒトのホモログと思われるOATP遺伝子も単離されていた。しかしながらその後の詳細な検討により、ラットとヒト間で胆汁酸や抱合型ステロイド輸送の薬理学的特性の違いやヒトOATPと実際の生体肝の薬物取り込みの特性に違いが認められ、ヒト肝臓における有機アニオンの広範な基質の輸送はoatp遺伝子群とは異なる別のトランスポーター遺伝子がつかさどる可能性が示唆されていた。 研究代表者はヒト肝臓のみ特異的に発現している新規有機アニオントランスポーターHuman liver specific transporter(LST〕-1の単離に成功した。LST-1は有機アニオントランスポーターoatp群と40%台、プロスタグランジントランスポーターとは30%台のホモロジーがあり、有機アニオントランスポーターのsupergene familyであることが確認された。LST-1のcRNAをアフリカツメガエル卵母細胞に注入し標識体による取り込み実験を行ったところ胆汁酸(タウロコール酸)、各種エイコサノイド(プロスタグランジンE2,トロンボキサンB2、ロイコトリエンC4、ロイコトリエンD4)抱合型ステロイド(デヒドロエピアンドロステロン、グルクロン酸エストラジオール、エストロン硫酸)を取り込んだ。また特定的な抗体を用いた免疫組織染色からLST-1蛋白は血管側の肝細胞膜に存在することが明らかとなり肝臓における多様な物質取り込みのmultispecificityに関与し、血中からの内因・外因性物質を肝細胞に輸送する重要なトランスポーターであると結論づけた。 研究代表者はさらにラットのホモログを見つけ、その遺伝子発現がラット胆汁鬱滞モデルで減少したことから胆汁酸排泄に欠かせないトランスポーターであると確認した。
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