研究概要 |
紫外共鳴ラマン(UVRR)分光を用いると、ペプチド骨格や芳香族アミノ酸側鎖の変化などタンパク質の構造変化を調べることができる。本研究ではヘモグロビン(Hb)のリガンド結合による蛋白の四次構造変化(T-R転移)を235nm励起のUVRRで主にTyrやTrpの変化としてとらえた。T-R転移にともないTrpでは強度変化が顕著でこれは主にβ37Trpによること、またTyrの変化にα42Tyrが関与することを既に明らかにした。しかしTyrの変化はα42Tyrのみでは説明出来なかった。そこで今回は新たにα140,β35,β145位のTyr変異Hbを用いて、これらのTyrのUVRRへの寄与を調べた。 UVRRスペクトルの測定には、235nmのUV励起光を用い、ラマン散乱はイメージインテンシファイヤー付きフォトダイオードアレーで検出した。Hbの変異体にはHb Rouen(αY140H),rHb(βY35F),CPaseAでβ鎖C末端の2残基を除いたdes(β145Y,β146H)Hbを用いた。 HbのT→R転移にともなうTyrの変化は1617(Y8a)と1177cm^<-1>(Y9a)のラマンバンドにみられる低波数シフトおよび強度増大である。α42Tyr変異体ではこの低波数シフトが小さくなるが強度変化は起こった。Hb Rouen(αY140H)では波数シフトは正常Hbの半分となり強度変化は起こらなかった。Hb Rouenに見られた変化はα42Tyrによるもので、α140Tyrは波数シフトと強度変化の両方に関与するものと考えられる。rHb(βY35F)ではほぼ正常Hbと同じ変化がみられたので、β35TyrはT-R転移には直接関与しないことが判明した。一方、des(β145Y,β146H)Hbでは波数シフトは正常に起こるが、強度変化が減少した。したがって、β145Tyrは波数シフトには関与しないが、強度変化には一部関与するものと考えることができる。
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