本研究ではヘモグロビン(Hb)の持つアロステリー(協同性)と蛋白質の立体構造変化との関連を知る目的で、主に機能異常を呈する異常血色素を用いてその機能と構造ついて調べた。蛋白質の構造変化は主に紫外円二色性(UVCD)と紫外共鳴ラマン分光法(UVRR)により追求した。研究成果は次の3つにまとめられる。 1.UVCDによるヘモグロビン四次構造変化に関する研究:Deoxy型のみにみられる287nmの負のCDバンドが何に由来するか、サブユニット接触面に変異を有する異常血色素を用いて調べた(業績1、2)。 2.異常鎖のヘム鉄が酸化型である異常血色素、HhMのうち、Hb M IwateとHb M Bostonについての研究:いずれのHb Mも異常鎖が酸化されているのみならず、正常鎖の酸素親和性が極端に低い。ヘムの構造および蛋白質の構造について可視および紫外共鳴ラマン分光により追求した(業績3、4)。 3.UVRRを用いた血色素の構造と機能に関する研究:235nm励起共鳴ラマンスペクトルにおいて、Deoxy→Oxy(or CO)で変化がみられるチロシン(Tyr)およびトリプトファン(Trp)のラマンバンドがどの部位のアミノ酸残基によるか、異常ヘモグロビン、NOおよび金属置換Hbを用いて調べた(業績5〜7)。 以上の研究結果から、ヘモグロビンの機能発現には、サブユニット接触面にあるチロシンやトリプトファン等の芳香族アミノ酸が、重要な役割を担っていることが判明した。それらは単独ではなく、相乗的に高次構造変化に寄与している事実は大変に興味深い。
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