Necdinは、胚性がんP19細胞よりニューロン分化特異的に得られた蛋白質である。Necdin mRNAは、初期発生期脳より発現しておりニューロン分化に伴って発現誘導される。NecdinをNIH3T3細胞に発現させると増殖が抑制されることから、necdinはニューロン分化に伴う分裂停止機構に関与するのではないかと考えられる。SV40 largeT抗原は、がん抑制遺伝子産物pRbやp53と結合することが知られている。pRbやp53が細胞増殖抑制能をもつことから、SV40 largeT抗原を発現しているCOS1細胞にnecdinを発現させ免疫沈降を行ったところ両者が共沈することがわかった。さらに酵母Two-Hybrid法を用いて両者の結合を確かめたところ、necdinはSV40 largeT抗原のpRb結合ドメインに結合することがわかった。pRbはS期進行に関与する転写因子E2F1と結合することが知られている。酵母Two-Hybrid法および免疫沈降によりnecdinはE2F1のC末端転写活性化ドメインに結合し、またその転写活性を抑制した。つぎにE2F1のC末端とp53の末端転写活性化ドメインはアミノ酸配列上類似性があることがらnecdinとp53との相互作用について検討を行ったところ、酵母two-hybrid法およびpull-down assayによりnecdinはp53のN末端転写活性化領域に結合することが明らかとなった。p53は塩基配列特異的にDNAに結合し下流の遺伝子を活性化する。p53をSOAS2細胞に発現させその核抽出液をもちいてゲルシフトを行ったところ、反応液中にnecdin蛋白質加えるとp53-DNA複合体がsupershiftすることがわかった。またp21プロモーターを用いてreporter assayを行うと、necdinとの共発現によってp53の発現によって上昇した転写活性は抑制された。これらのことからnecdinはDNA上でp53と結合し、その転写活性を抑制すると考えられた。U2OS細胞にp53を過剰発現させるとアポトーシスが誘導される。p53単独発現では遺伝子導入後72時間で陽性細胞が約20%になり、Hoechst dye染色で核内クロマチンの凝集や分裂などアポトーシスと思われる染色像を呈していた。それに対してnecdinを共発現した細胞では、遺伝子導入後72時間でも約80%の細胞が生存し、Hoechst dye染色でも多くの細胞が正常な染色像を呈していた。このことからnecdinはp53依存性アポトーシスを抑制するものと考えられた。pRb/p53欠損SAOS2細胞にnecdinを発現させると増殖が抑制されることからnecdinによる細胞増殖抑制はpRb非依存的であること、またp53の発現によりアポトーシスが誘導されるがnecdinとの共発現で安定な分裂停止状態が維持されることが明らかとなった。
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