ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給する細胞小器官であるがその機能低下・損傷は細胞のエネルギー生産低下のみならず、ミトコンドリア蛋白シトクロムcやAIF(アポトーシス誘導因子)のミトコンドリアからの遊離により細胞はアポトーシスを起こす。ミトコンドリアDNA(mtDNA)を完全欠失したヒト細胞のFas抗原を介したアポトーシスの機構の解明を行い、この細胞ではFas遺伝子の転写量が20倍増幅されていた。ミトコンドリアの機能低下によって調節されているFas以外の遺伝子の検索を行った。mtDNAを持たないヒト細胞とmtDNAをもつヒト細胞からmRNAを調製し、ディファレンシャルディスプレー法で発現パターンを比較した。mtDNAを持たないヒト細胞特異的に発現上昇している複数のバンドをクローニングし、塩基配列を決定した結果、それらの中に新規の塩基配列(新規遺伝子ebx)を見い出した。ebxの発現量をABI Sequence Detection Systemを用いて検討した。mtDNAを持たないヒト細胞ではmtDNAをもつヒト細胞に比べ7倍高く発現していた。ebxのcDNAをヒト脳cDNAライブラリーからクローニングした。塩基配列の解析から選択的スプライシングが異なる3種類のcDNAが得られた。その中のひとつは開始コドン周辺の塩基配列がKozak motifと良く一致した。このcDNAは298アミノ酸残基からなる蛋白質をコードしており、そのC末端付近に4個のロイシンから成るロイシンジッパー構造があった。EbX蛋白はホモダイマーあるいは他の蛋白質とヘテロダイマーを形成し、アポトーシスを制御している可能性が考えられた。
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