精神分裂病では前頭葉と帯状回を含む辺縁系に解剖学的な異常が集積していることが報告されている。本研究では、精神分裂病が気質的素因に基づく脳の機能的発達異常であるという仮説に着目し、脳の発達に重要な役割を果しているといわれているニューロトロフィンと呼ばれる神経栄養性因子と精神分裂病との関連性を調べた。サンドイッチ型超好感度免疫酵素測定法により、3種類のニューロトロフィン(NGF、BDNF、Neurotrophin-3)タンパクの脳内微量定量を行った。BDNFレベルは海馬と帯状回に有意な上昇、NGFは海馬で上昇傾向が見られた。その他の脳の部位やNeurotrophin-3に関しては変動は観察されなかった。海馬と帯状回でのBDNF上昇は、抗精神薬を切った患者脳モデルであるフェンサイクリジン(PDP)投与動物においても、ニューロトロフィンがどう変化するかを調べた。このPDP投与動物においても同様にBDNFレベルは帯状回と臭内皮質で有意な上昇を示した。その他の脳の部位やNeurotrophin-3に関しては変動は観察されなかった。これらの結果は、皮質―辺縁系におけるBDNFの異常発現が、分裂病の発症、もしくはその病態に関与していることを強く示唆している。
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