アポトーシスでは膜リン脂質スフィンゴミエリン(SM)のスフィンゴミエリナーゼ(SMアーゼ)による分解産物セラミドが重要な細胞内メッセンジャーとして位置づけられつつある。また、従来遺伝子の障害によると考えられていた放射線障害による細胞死にも、SMアーゼが中心的な役割を果たしている可能性が示された。一方、アルツハイマー病患者脳や老化した線維芽細胞では著しいホスホリパーゼD(PLD)活性の低下が示されており、細胞の機能維持・生存にPLDの重要性が示唆されている。ラットグリオーマC6細胞ではC2セラミドによりアポトーシスが誘導されるが、その際にはG蛋白質依存性のPLD活性とrPLD1aおよびrPLD1bmRNAの著明な減少が見られた。同様の変化は、ラット好塩基球性白血病RBL-2H3細胞、ラット褐色細胞腫PC12細胞、ヒト表皮HaCat細胞など他の細胞系、あるいは他のアポトーシス誘導因子であるTNF-αとH_2O_2でも認められた。一方、PC12細胞ではアポトーシスを誘導する活性酸素種のひとつであるH_2O_2によりチロシンキナーゼを介して著しくPLDが活性化されることを明らかにし、Pyk2がPLD活性化に関与するチロシンキナーゼの候補である可能性を見いだし、現在活性化されるPLDアイソザイムの同定も含め、Pyk2との連関を詳細に解析している。一方、脂肪酸型PLDを主に発現しているJurkat T細胞では、アクチノマイシンDなどのアポトーシス刺激により脂肪酸遊離を伴ったPLD活性化を見いだし、脂肪酸型PLD(PLDOA)のアポトーシスにおける役割とその活性化メカニズムを検討している。以上の結果から、セラミド系のみならず、PLD系も細胞の生存・アポトーシスの重要な調節因子として機能していることが推測される。
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