本研究ではまず大脳皮質混合培養細胞とそこから分離した付着性細胞に対して、HDCのcDNAプローブを用いてin situ hybridizationを行ない、マイクログリアに類似した細胞にシグナルを検出した。そこで、マウスのマイクログリア株化細胞を用いて、リポ多糖によるHDC誘導現象を検討し、HDC活性の上昇とHDCmRNAの発現を認め、カルモジュリンキナーゼIIの経路を介してmRNAの転写と蛋白の新たな合成によることを明らかにした。ここにマイクログリアが脳内誘導型ヒスタミンの責任細胞であることを確定した。 また、本研究期間に脳内ヒスタミンがレプチンによる食欲調節にも関わっていることを新たに見出した。レプチンは末梢組織の脂肪細胞から分泌されるペプチドホルモンで、視床下部に作用して食欲を抑制することが知られている。このレプチンの食欲抑制作用は、薬理学的に脳内ヒスタミンを涸渇させた動物や、ジーンターゲッティングによりヒスタミンH1-受容体を遺伝的に欠損させたマウスでは見られないことから、脳内のヒスタミンが介在していることを明らかにした。さらに、末梢から投与したレプチンが視床下部でのヒスタミンの遊離を増強すること、この作用には鼓索神経からの入力が必要であることを証明した。このレプチンの食欲抑制作用に関わるヒスタミンは恐らく脳内ヒスタミン神経系であろうが、サイトカインにより脳内のマイクログリアでHDCが誘導されヒスタミン遊離が増加したとき、食欲抑制的に作用することも十分考えられる。また、炎症などにより脳内でサイトカインが増加したときに生じる様々な反応にこの誘導性ヒスタミンが関与していることも考えられる。そこで、マウスにおいてリポ多糖による血液脳関門の破壊をエバンスブルー法で定量化し、これを指標に誘導性ヒスタミンの病態生理学的意義について現在検討を進めており、近々結果が出る予定である。
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