遅発性幼児型Batten病(late infantile ceroid lipofuscinosis、以下LINCL)におけるF_0F_1-APT合成酵素サブユニットc蓄積の機構を明らかにするために、原因遺伝子CLN2産物cln2pに対する抗体を調整し、この蛋白質の挙動についての検討を行った。Pulse-chase実験の結果cln2pは67kDaの前駆体として合成された後46kDaの成熟型に変換された。Immunoblottingの結果コントロール細胞で認められる46kDaの蛋白質はLINCL患者の細胞では検出されなかったが、RT-PCRを用いた定量ではコントロールと患者細胞でCLN2をコードするRNA量に差が認められず、LINCL患者細胞ではmRNAからの翻訳効率が極めて悪いが、生合成後すぐに分解されることが考えられる。Cln2pの細胞内局在についてはPercoll density gradientを用いた細胞分画およびImmunoblottingによって調べた結果、この蛋白質はリソソーム画分に認められた。蛍光抗体法による観察でも、カテプシンDと同じ顆粒(リソソーム)に認められ、Cln2pのリソソーム画分から除去するとサブユニットc分解活性は低下した。 最近Cln2pの本体がTripeptidyl aminopeptidase(TPP-1)であることが明らかとなった。このことを受けてLINCL患者およびコントロール細胞におけるTPP-I活性を比較したところ、患者細胞におけるTPP-I活性の特異的な欠損が認められた。Cln2p/TPP-Iの性質について検討を行ったところ、この酵素はpH3.0に至適pHを示すendopeptidase活性とpH4.5に至適pHを示すtriptidyl aminopeptidase活性をともに持ち、Ala-Ala-Phe-CH_2Clのみによって阻害された。この阻害剤によるF_0F_1-APT合成酵素サブユニットc分解抑制効果が培養細胞及びin vitroの系を用いた実験で確認されたとからLINCL患者細胞で欠損しているCLN2の産物TPP-I/Cln2pがサブユニットcの分解に直接関わっていることが示唆された。
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