薬剤耐性は臨床における癌腫の治療において最も重要な問題の一つである。その薬剤耐性発現のメカニズムにエトポシド、アドリアマイシンなどの標的酵素であるトポイソメラーゼIIα遺伝子の発現低下、遺伝子自体の突然変異が挙げられる。とくに臨床の検体ではトポイソメラーゼIIα遺伝子の発現低下による薬剤耐性の獲得が主であると考えられている。本研究は薬剤耐性となった癌腫の薬剤耐性の発現の機序、とくにトポイソメラーゼ遺伝子の発現低下に関与した癌腫に対し、その薬剤耐性を克服する目的で正常ヒト・トポイソメラーゼ遺伝子を組み込んだ組み換えアデノウイルスを用いた遺伝子導入による耐性の克服の検討を行った。 ヒト乳癌細胞株であるMDA-231細胞株とそのエトポシド耐性株であるMDA-VP細胞、ヒト白血病細病株であるK562細胞とそのエトポシド耐性細胞株のK562/MX2、マウス乳癌細胞株であるFMA-3A細胞株とそのエトポシド耐性株であるFvP細胞を用いた。これらの耐性細胞株、および親株に対して正常ヒト・トポイソメラーゼ遺伝子を組み込んだ組み換えアデノウイルスによる遺伝子導入を行いエトポシドへの感受性が増加するかを検討した。 本研究で 1)正常ヒト・トポイソメラーゼ遺伝子を組み込んだ組み換えアデノウイルスはヒトおよびマウスの乳癌のエトポシド耐性細胞株に対して、薬剤の感受性をあげることができた。これはマウスによる動物実験モデルでも確認できた。 2)しかし、アデノウイルスに対する受容体の数が少ないと考えられる白血病細胞株では遺伝子治療の効果はなかった。
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