現在、活性酸素生成機構の大略は明らかにされ、蛋白質分子レベルにおける詳細な検討がなされている。しかし、その制御機構、特に、病原因子との係わりに注目して解析された例はない。本年度は、アスペルギルスの主要病原因子であるグリオトキシン(GT)と活性酸素生成酵素(NADPHオキシダーゼ)との係わりに焦点をあて興味深い知見を得た。GTは、毒性の強いepipolythiodioxopiperazine環を持つことが特徴で、Sを2個持つdisulfide(S-S)型であり、NADPHオキシダーゼの活性化段階を阻害した。しかし、一旦活性化された酵素の触媒活性は、影響を受けなかった。GTによる阻害機序には少なくとも2つの可能性が考えられる:(1)細胞膜を通過したGTが細胞内還元物質と反応し、酸素要求性の酸化還元サイクル反応を介してH_2O_2や未知のラジカル生成に用いられ、その結果としてNADPHオキシダーゼを阻害する。(2)GTが直接NADPHオキシダーゼを阻害する。低酸素下で好中球をGT処理してもその阻害活性が維持されること、酸化還元サイクル反応の中間代謝産物であるdithiol型GT(-SH)が阻害活性を持たないことから、酸化還元サイクル反応が関与しないことが明らかになった。そして、GTによる阻害は、disulfide型GT(S-S)が、NADPHオキシダーゼ中のvicinal SH基と直接反応した結果であることを明らかにした。更に、低酸素下に於けるGTのIC50は、通常酸素濃度下に比べ約600倍低下した。この結果は、酸素濃度の低い組織では、酸化還元サイクル反応が起こりにくく、GTが直接vicinal SH基と反応するため、非常に強い毒性活性を持つことを示している。
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