研究概要 |
血管病変の主座は病変によって異なることが知られており、高血圧は小さい血管壁の肥厚として現れ、動脈硬化においては大きな血管に病変が現れる。これらの事実は動脈血管樹の部位によって血管平滑筋の性質が異なることが示唆される。我々は血管樹の部位による血管平滑筋の性質に違いがあるかどうかを明らかにすることを目的として実験を行なった。 我々は、ラット腸間膜動脈樹を大きい部分と小さい部分に単離し、培養した。大きい血管はpolygonal及び類円形の形態を示すものが多く、小さい血管ではbipolar及び紡錘形の細胞が多い。アクチン及びデスミンなどを用いて培養細胞が血管平滑筋細胞由来の細胞であることを同定した。続いて、培養細胞の増殖能を検索した所、大きい血管由来のものより小さい血管由来の細胞の方が増殖能は高かった。これらを変形可能なシャーレに培養し、シャーレを伸長した所、同様に小さい血管の細胞の方が伸長によって増殖能が高くなることが確認された(Vascular Research,55,14-28,1998)。 今回更にヒト冠動脈の平滑筋細胞における中間径フィラメント、カルポニン、カルデスモンの発現を検索したところ、大きい部分と小さい部分とでは、明らかな違いのあることが確認された。デスミンとカルポニンの発現はほぼ同様で大きな部分にのみ確認され小さい部分には確認されなかった。アクチンとカルデスモンは類似しており、小さい血管の発現が著明であった(Vascular Research,in press)。これらの結果はヒト冠動脈においても大きい部分と小さい部分ととでは機能の違いがあることが示唆された。大きい部分は大きな圧がかかるため、強度が必要で中間径フィラメントのような強い構造が外側にあることが考えられる。小さい部分では十分に血液を供給したり、抑制したりしなければならないので、収縮に関係するものだけでよいことが考えられる。
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