研究概要 |
上衣腫の腫瘍形成機序を病理形態学的手法と分子生物学的手法を用いて以下の3項目について解析した。 1)上衣腫13例を含むグリオーマ33例中,上衣腫4例においてPCR法によりSV40 large T抗原遺伝子の存在を証明した。さらにlarge T抗原以外のSV40遺伝子についてもPCR法を用いて検討中である。 2)p53遺伝子の遺伝子変異の有無を免疫組織化学染色でスクリーニングし、その頻度が8%と,星細胞腫群に比べて極めて少ないことを見いだした。p53の免疫染色で陽性を示した症例についてSSCPによる解析を進めているが、今のところ遺伝子変異を示唆する結果は得られていない。 3)20症例の上衣腫組織(計26サンプル)についてMDM2遺伝子の過剰発現を免疫組織化学染色で、遺伝子増幅をdifferential PCR法にて解析したところ、免疫染色で96%が陽性で高率に過剰発現が起きていることが証明された。その機序の一つとして遺伝子増幅が35%でみとめられ、上衣腫の分子レベルでの発生機序としてMDM2遺伝子の過剰発現が重要であることを証明した。一方で、上衣腫において遺伝子増幅以外のMDM2遺伝子過剰発現の機構が存在することが示唆された。組織学的な退形成の有無とMDM2の過剰発現は関係せず、MDM2遺伝子の過剰発現は腫瘍発生過程の比較的初期に関与すると考えられた。MDM2の過剰発現はp53の機能抑制的に働くと考えられ、むしろp53の異常が少ない上衣腫に高頻度に見られることが確認できた。
|