研究概要 |
1.ヒト正常細胞では脂肪酸合成酵素(FAS)はホルモン感受性細胞(乳腺、前立腺、子宮内膜、卵巣黄体、など)、脂質代謝の活発な細胞(皮脂腺、脂肪組織、II型肺胞上皮など)および胎児で増殖の盛んな細胞に発現していた。 2.各種ヒト癌における(FAS)の発現 (1)ヒト癌(軟部組織肉腫を含む)では1131例中838例(74%)にFASの発現が認められた。高頻度にFASの発現を示す癌は乳癌(243/243),食道癌(85/88),膀胱癌(55/64),肝癌(39/47)であり、胃癌(270/434),肺癌(127/200)は中等度の頻度、軟部組織肉腫(20/64)は低頻度であった。 (2)生存率との相関 FASの発現の高い群で生存率の不良な癌は乳癌、膀胱癌および軟部組織肉腫であった。その他の癌(食道・胃・肺・肝)ではFASの発現と予後との間に一定の相関性は認められなかった。 3.乳癌株MCF-7はエストロゲン、プロゲステロン刺激によりFAS-mRNAの発現が亢進した。つまり女性ホルモンは転写レベルでFASの発現を上昇させた。エストロゲンの効果はタモキシフェンにより阻害された。 4.胃癌株8種では、FASの発現と脂肪酸代謝に関わる蛋白・酵素(β-酸化、リン脂質合成ならびに蛋白質のアシル化)の発現は非常に高い関連性を示した。 5.FASの特異的阻害剤セルレニン処理によりFAS産生株である胃癌株Takigawaの増殖は著名に抑制された。同時に脂肪酸代謝関連蛋白・酵素の発現は大部分有意に低下した。 以上、ヒト癌でFASは高頻度に発現していること、FASの発現はホルモンのコントロールをうけることならびにFASの発現と脂肪酸代謝系は密に関連していることが確認された。また、胎児および一部の癌では、細胞の増殖とFASの発現がおおむね関連性をもつことが明らかにされた。
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