研究概要 |
大腸癌の癌化過程では家族性大腸腺腫症に代表される、APC遺伝子やK-ras遺伝子変異を伴う過程と、遺伝性非腺腫症性大腸癌(HNPCC)に代表されるミスマッチ修復(MMR)遺伝子変異により癌化が起る過程が存在する。MMR遺伝子異常が腫瘍全体の遺伝異常とどの様に関わっているかを解析した報告は現在までになされていない。そこでMMR遺伝子の異常と腫瘍内heterogeneityとの関係について評価した。散発性大腸癌46例の腺管分離材料を用い以下の如くDNA解析を行った。 1.MMR遺伝子(MSH2,MLH1)の点突然変異と遺伝子欠失(LOH) 2.癌抑制遺伝子p53遺伝子のLOH 3.DNA複製エラー(RER)の検索 4.MMR遺伝子の2ヒット症例では単一腺管ごとにDNAを抽出し、上記の遺伝子解析を行った。その結果は以下の如くであった。 1.MMR遺伝子のLOHはRER陽性癌で多く検出された。 2.MMR遺伝子は腫瘍内でheterogeneityを示した。これはp53遺伝子のLOHとは対照的であった。 3.MMR遺伝子の2ヒット症例の癌腺管は点突然変異のみを有する腺管群(1ビット)とLOHを伴う腺管群(2ヒット)とに分類され、腫瘍内heterogeneityの存在が腺管単位で証明された。 異常なMMR遺伝子の不活性化は抑制遺伝子のそれとは異なり、腫瘍内でheterogeneityを誘導するユニークな機構で癌化に寄与する可能性が考えられた。
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