研究概要 |
平成10年度の研究計画に従い、蒐集された20例の解離性大動脈瘤と、これらの症例に年齢・性が一致し、さらに高血圧を持たない同数例の対照群を設定した。解難性大動脈瘤例のうち、電顕観察の可能であった10例を検索すると、何れの例の解離部においては、弾性線維の変性像のみでなく、同時に膠原線維も高頻度かつ多量に及ぶ螺旋型膠原線維の出現を認めた。又、これら細胞外基質の代謝に関与する、matrix metalloproteinase-1,2,9及びtissue inhibitor of matrix metalloproteinase 1-,2の発現が、解離部において、対象群の対応部位における発現率に比して、有意に亢進を示していた。解離性大動脈瘤の解離部における弾性線維の変性は、線維性蛋白の分解に深く関わると考えられるMMP 2,9の発現と対応した所見として考えられる。螺旋型膠原線維は、膠原線維が、一度、変性を起こしたものが、再重合を示した結果として考えられるが、MMP-1,2の発現は、この過程に関与している可能性が高いものと想定される。一方、 MMPsの発現と呼応するようにTIMPsの発現も亢進を示しており。脈管内における組織構築の把持は、これら酵素系の恒常性に依っており、この過程の破綻により、解離性大動脈瘤の発生に連なるものと思われる。この際、解離性大動脈瘤患者の9割にみられた高血圧の合併は、上行大動脈に後発する解離発生に、血行力学的な負荷を与えることによって、契機を与えることが考えられた。
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