日本人脳腫瘍患者由来DNA63例(上衣腫1例、乏突起膠腫6例、星細胞腫10例、退形成性星細胞腫10例、髄芽腫1例、膠芽腫35例)を用い、9番染色体短腕に存在するがん抑制遺伝子候補であるp16遺伝子の異常を検索した。まずp16遺伝子のホモ接合型欠失の有無を、pl6遺伝子エクソン2および同じ9番染色体長腕に存在する9qSTS5を増幅する2種のプライマー系を用いたマルチプレックスPCR法により調べた。様々の割合でpl6遺伝子欠失DNAと正常組織由来DNAを混合したマルチプレックスPCR産物のバンド濃度を定量化し得られた標準曲線より、20%の正常組織DNA混入時の値以下を示した検体をp16遺伝子ホモ接合型欠失とした。pl6遺伝子ホモ接合型欠失は1例の退形成性星細胞腫と6例の膠芽腫においてのみ認められた。PCR-SSCP法によるpl6遺伝子変異のスクリーニングでは星細胞腫の1例、退形成性星細胞腫の1例および膠芽腫の6例で移動度の異なるシグナルがみられた。この8症例のPCR産物をベクターに組み込み塩基配列を決定した。全例に突然変異が検出され、膠芽腫の3例のコドン66、143、145にアミノ酸置換の予測される変異がみられた。抗pl6抗体を用いた免疫染色法によりpl6蛋白発現を検索した46症例(上衣腫1例、乏突起膠腫4例、星細胞腫5例、退形成性星細胞腫6例、膠芽腫29例)中70%以上の腫瘍細胞が反応陰性であった例は星細胞腫の1例、退形成性星細胞腫の2例、および膠芽腫の6例であり、その他の例でも反応陰性細胞のクローナルな増殖がしばしば認められた。また上衣腫の1例、膠芽腫の3例では部位による差が大きく、70%以上の腫瘍細胞が陽性の部位と陰性の部位が認められた。これらの所見はpl6遺伝子の異常およびその発現異常は脳腫瘍の悪性化の段階に働いていることを示唆する。
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