昨年に引き続き症例を増やし、日本人脳腫瘍患者由来DNA75例(上衣腫3例、乏突起膠腫9例、星細胞腫12例、退形成性星細胞腫11例、髄芽腫1例、膠芽腫39例)を用い、9番染色体短腕に存在するがん抑制遺伝子候補であるp16遺伝子の異常を検索した。まずp16遺伝子のホモ接合型欠失の有無を、p16遺伝子エクソン2および同じ9番染色体長腕に存在する9qSTS5を増幅する2種のプライマー系を用いたマルチプレックスPCR法により調べた。P16遺伝子ホモ接合型欠失は1例の退形成性星細胞腫と6例の膠芽腫においてのみ認められた。PCR-SSCP法によるP16遺伝子変異のスクリーニングでは星細胞腫の1例、退形成性星細胞腫の1例および膠芽腫の6例で移動度の異なるシグナルがみられた。この8症例のPCR産物をベクターに組み込み塩基配列を決定した。全例に突然変異が検出され、膠芽腫の3例のコドン66、143、145にアミノ酸置換の予測される変異がみられた。悪性度の高い症例でp16遺伝子のホモ接合型欠失率、突然変異率共高かった。しかし悪性脳腫瘍においてはp16遺伝子ホモ接合型欠失が50%以上と高頻度に認められ、突然変異はほとんどみられないとする欧米からの報告とは異なり、日本人悪性脳腫瘍患者のp16遺伝子のホモ接合型欠失の頻度は約15%と低く、脳腫瘍発生機構に人種差がある可能性を示唆する。p16エクソン2にスプライスしp16とは全く異なる蛋白を作るE1β遺伝子がコードする蛋白が、p53蛋白と関連し発がんに関与するとの報告がある。日本人脳腫瘍患者由来DNA75例のE1β遺伝子の異常をPCR-SSCP法により調べたがE1β遺伝子変異は全く認められなかった。
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