研究概要 |
本研究では、ホルマリン固定・パラフィン包埋組織から安定して効率よく、一定の品質のDNAを回収するためにDNA抽出方法の改良を目指している。本年度はまず10%ホルマリン固定・パラフィン包埋した胸腺腫組織を用い、抽出の各ステップがDNAの収量や質にどのような影響を与えるかを詳細に検討した。検討項目としては1)DNAの回収量,2)アガロース電気泳動パターン,3)βグロビン遺伝子を110,268,536,987,1327塩基長で増幅する5種類のプライマーを用いた.PCRの効率を選んだ。その結果、脱パラフィンにはキシレン、Hemo-Clear、AutoDewaxerなど用いる溶液による結果の差はなかったが、室温よりも80℃での処理の方が回収量、増幅されるDNAの長さとも優れていた。蛋白分解酵素としてプロテナーゼK(PK)を48℃で用いる従来法に比べて、55℃での反応の方が回収量に変化はないものの、より長いDNAを増幅できた。また、脱パラフィン後、蛋白分解酵素処理前に、マイクロウェーブや超音波による処理や、DNAリガーゼによるDNAの修復操作を行ってもDNAの収量や質の向上は認めなかった。さらに、有機溶媒を用いずにマイクロウェーブを用いて熱で直接パラフィンを溶かした後、遠心機で分離し取り除き、蛋白分解酵素を使用してDNAを精製する方法を試みたが回収率、PCRによる増幅の程度とも従来法に比して良好であった。このような結果から、1)脱パラフィンを有機溶剤80℃で行い、PK処理を55℃で行う方法と、2)脱パラフィンをマイクロウェーブで行い、その後48℃(55℃で行うと回収率に変化はないが、増幅されるDNAの長さが低下する)でPK処理を行う方法が優れていると思われた。さらに、従来法とこの2法を用いて5例の悪性リンパ腫症例での検討を行ったところ、マイクロウェーブ法が他の2法より長いDNAを増幅できることを再確認した。
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