悪性リンパ腫は極めて多様性に富む腫瘍であり、その本態の解明は真に学際的な研究によってのみ可能である。節外性リンパ腫の中心をなす粘膜関連リンパ組織型B細胞リンパ腫(MALTリンパ腫)はIsaacsonとWrightにより1983年に提唱された。当初、その本態に関して強い懐疑論に晒されたが、最近提案されたREAL分類さらに現在成案中の新WHO分類では独立項目として掲載されている。本邦非ホジキンリンパ腫全体の約16%を占め、明確な疾患単位を形成する。しかし、その腫瘍発生における分子病態は長く解明されないままであった。我々は本腫瘍発生への関与が推定されるt(11;18)染色体転座を有するMALTリンパ腫の報告を重ねた。これら腫瘍の外科的手術材料を用いてFISH法等の細胞遺伝学的および分子生物学的手法によりt(11;18)切断点を世界に先駆けて公表した(1999年2月)。さらに18番染色体上のtarget遺伝子のクローニングによる同定に成功し、新たな遺伝子であることよりMALT1と命名した(1999年10月)。また、11番染色体上の遺伝子は既知のAPI2であった。これら遺伝子の医学的重要性が強く示唆される。しかし、それらのヒトにおける病理学的、生物学的意義は現段階では全く不明であると言わざるをえない。今後、FISH、PCR、Northern法などを駆使して悪性リンパ腫におけるMALT1とAPI2遺伝子発現と異常の全体像の解明を目指すことは急務である。さらに検討対象をヒト腫瘍全体へ展開し、血液リンパ系細胞分化との関連や免疫系における記憶細胞の選択と生存への関与の有無という生理学的視点からのアプローチも必要とされよう。その分子動態の解析に関しては未知の領域に属し多くの困難が予測されるのも事実であるが、そこから得られる研究成果は測り知れないものと期待される。
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