研究概要 |
急速進行性(半月体形成性)糸球体腎炎の発症機序は未詳であるが、ボーマン嚢上皮細胞、糸球体上皮細胞ならびにマクロファージがその進展に深く関与していることが示唆されている。しかしながら、進行過程でのそれらの細胞動態には不明な点が多い。報告者らは、現在までに半月体形成に至る機序回目いに大きな示唆を与える新事実を報告した。すなわち、ラットの腎糸球体を特定の条件下で培養すると、糸球体上皮細胞(podocyte)が化生して形態および機能がマクロファージ様に変化することを発見した(Lab.Invest.75,719-733,1996)。 本研究は化生した細胞を抗原としてモノクローナル抗体の作成を試み、それをマーカーとすることで半月体形成細胞の同定とその機序の解明を目的としたものである。 本研究遂行の結果、得られたモノクローナル抗体OS-3は化生したマクロファージ様細胞と正常ラット腎のボーマン嚢上皮細胞の一部に陽性であるが、馬杉腎炎モデルで形成される半月体に反応した。免疫電顕による半月体構成細胞の解析でOS-3はボーマン嚢上皮細胞のほかマクロファージ、さらに糸球体上皮細胞に陽性であった。また、蛍光抗体二重染色法による検索では糸球体上皮細胞のOS-3対応抗原(43kD)の発現はpodocalyxinの脱落と対応していることも判明した。 以上の結果より、半月体はボーマン嚢上皮細胞、外来性マクロファージ、糸球体上皮細胞の複合体より形成されることが判明した。さらに、糸球体上皮細胞には何らかの形質変化が惹起されることで、半月体形成に関与することも同時に示唆された。培養による"化生"と糸球体腎炎での"形質変化"で同一分子が発現する事実は細胞生物学的にも重要な意義があり、本研究の成果は今後の半月体形成機序の分子レベルでの解明に大きく貢献するものと思われる。
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