1.緒言:われわれは、アルツハイマー病βアミロイド線維(fAβ)形成のモデルとして、試験管内アミロイド線維形成反応系を用いて、前駆蛋白質であるAβ蛋白(Aβ)のfAβ形成過程の解析及び、Aβと生体内構成成分との相互作用の解析を行ってきた。また、試験管内fAβ形成過程は、重合核形成過程と線維伸長過程からなる重合核依存性重合モデルに適合することを示した。本研究では、アルツハイマー病発症機構において重要と考えられているAβ蛋白質1-42(Aβ42)からのfAβ形成過程を精密に測定する実験系を確立し、これを用いて、fAβ形成を阻害する物質の反応機構の検討を行った。さらに、脳内での複雑なfAβ形成をより正確に反映する為に、複数のAβバリアントが関与する線維形成過程を検討し、またfAβ形成過程全体の速度を規定すると考えられる重合核形成を解析した。 2.結果:(1)アポリポ蛋白E(apoE)及び合成抗酸化剤はAβ42の試験管内fAβ形成を阻害した。反応速度論的に比較解析し、apoEと抗酸化剤の阻害機構が異なることを示した。(2)2種のAβ蛋白、即ちAβ42とAβ蛋白1-40(Aβ40)のfAβ形成過程での相互作用を速度論的に解析した。その結果、両者の混合溶液中では、Aβ42がAβ40の抑制的相互作用に打ち勝って核形成を行い、これにAβ40が次々に結合して線維を形成することを示した。また、Aβ42の脳内fAβ形成における重要性が示唆された。(3)コレステロール代謝に依存して特殊な培養細胞から分泌されるAβが、特定の立体構造をーとることによりfAβ形成の重合核として機能することを示した。 3.結語:本研究により、fAβ形成機構の解析方法が示された。また生体内での重合核の候補が示されたが、これらと生体分子および抗酸化剤との相互作用を解析することで、より効果的なアミロイド治療戦略の構築が期待される。
|