1. 本年は、脳のPDGF-Bの役割を解明するために、apoptosisによる神経細胞死を主として誘導すると考えられるラット脳障害モデルにおけるPDGFおよび受容体発現を検討した。 (1) 砂ネズミの一過性の脳虚血モデルの海馬でのPDGF-B発現を検討した。虚血の後にapoptosisにより選択的に神経細胞死が誘導されるCA1領域の神経細胞では、一過性のPDGF-BmBNA発現誘導があるが、蛋白は急激な減少を来たし、12時間の後には消失した。一方、虚血の後にも神経細胞死を免れるCA3の神経細胞では、PDGF-BのmRNAおよび蛋白発現は持続的な増加傾向を示した。PDGF-Bがこれら神経細胞の虚血後の生存に密接に関与する事を明らかにした。 (2) ラットの視神経を栄養血管を保ったまま切断後の網膜神経節細胞および視神経におけるPDGF-B発現を調べた。正常網膜では、網膜神経節細胞とその神経軸索にPDGF-Bが豊富に発現していた。切断の後にはこれらの神経細胞のapoptosisによる死に先行してPDGF-Bの急激な減少が見られた。一方、切断した視神経局所では炎症所見に一致してPDGF-B発現が見られた。 これら、2つの研究からPDGF-Bが障害の後の神経細胞の生存に重要な役割をはたす神経賦活因子として作用していることが示唆された。 2. 我々は、新たにHeparin-binding EGF-like growth factorが脳に広範に発現していることを見い出した。正常発達ラット脳の周産期で発現誘導があり、ダリアおよび神経細胞に豊富に発現することを見い出した。神経組織における細胞増殖および分化に重要であることを示す結果を得た。
|