研究概要 |
遺伝性てんかんラットの海馬領域には神経細胞の異常な集簇や、配列の異常が常に認められる。我々はこの神経細胞の異常配列は海馬領域の神経細胞形成異常であり、神経形成期における移動障害によって生ずるという作業仮説を立てた。本研究はこの作業仮説を実証し、神経細胞の移動障害の機序を解明する為にためにBrdUを神経細胞の分裂・移動のトレーサーとして用い、胎生期における神経細胞の移動を解析し形成異常の本態を明らかにしようとするものである。 平成10年度は基礎情報を得る目的で、遺伝性てんかんラットの行動観察並びに神経細胞微少形成異常の病理学的検索をおこなった。IGERは生後2ケ月頃よりwild running,jumpingなどの異常運動を発現し、生後3カ月頃より回転運動、生後6カ月頃より全身性強直・間代性けいれん発作(GTC)を発症することが明らかとなった。一部の動物では異常運動のみ、あるいは回転運動のみのものもあり、全てのラットがGTCに達するものではない。 海馬の組織学的検索の為に生後2,6,10ケ月齢のIGER脳を灌流固定し、凍結連続切片をニッスル染色して観察した。海馬では背側全部においてST.radiatum部に異常神経集簇が見られ、CA 1錐体細胞層と海馬采移行部には強い神経細胞の分散性配列が見られた。海馬腹側後部には錐体神経細胞の配列の乱れや、配列の微少な途絶が認められた。この様な海馬の異常所見は雌雄、月齢、更には発作タイプに関係なく全ての動物に常に認められ、遺伝子異常に基づく神経細胞の微少形成異常であることが確認された。
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