ヒトの大動脈内腔表面に分布している多核を有する大型内皮細胞をバリアント内皮細胞(MVEC)という。大動脈を硝酸銀で処理し、内皮細胞間に存在する基底膜成分を銀染色した後、一層の内皮細胞層のみen-face(Hautchen)preparation法で剥離し、顕微鏡下で動脈硬化病変の違いにおける分布様式を観察すると、動脈粥状硬化の程度が強い病変部は多数のMVECに覆われていることがわかり、MVECと動脈硬化の密接な関係が明らかとなった。MVECは多核であることに注目して、個々の核の染色体数をFluorescent in situ hybridization(FISH)法を用いて染色体ploidyを検討した。プローブDNAとしてp53をcodeしている17番染色体のalpha satellite probeを用いた。その理由は以前の研究で癌抑制遺伝子であり細胞増殖調節遺伝子でもあるp53蛋白がMVECの核に限局して発現していることが判明していたからである。その結果小型で単核の典型的な内皮細胞でも染色体数にaneuploidy(この場合17番染色体のみであるから正確にはaneusomy)があることが分かった。その異常の程度は加齢の程度と関連していた。p53の異常発現とaneusomyの存在から遺伝子の塩基配列の異常が予測されたため、PCR-SSCPを行うと異常なバンドが少数例に認められた。 現時点では遺伝子異常とp53の異常発現やaneusomyとの直接的な関係は明らかにできていないが、少なくとも体細胞の一部に加齢とともに遺伝子異常がおこっていることが明らかとなった。次および次々年度はこのような遺伝子異常が動脈硬化や加齢あるいは老化現象に如何なる影響を及ぼすか検討する。
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