ヒトの大動脈内腔表面に分布している多核を有する大型内皮細胞バリアント内皮細胞(MVEC)の存在の程度は、動脈粥状硬化の程度と密接な関係が明らかとなった。また、癌抑制遺伝子で細胞増殖調節遺伝子でもあるp53蛋白がMVECの核に限局して発現した。一方、MVECのみならず小型で単核の典型的な内皮細胞にも染色体数のaneuploidyが加齢に関連して見られた。 動脈硬化病巣の発生・進展にLDLの血管内膜蓄積が重要であることは論を待たない。そこで内皮細胞のコレステロール代謝や移送の検討を行なった。動脈硬化病巣表面に多く存在するバリアント内皮細胞はLDLレセプターの発現を亢進し、細胞表面のcaveolin発現やcaveoleも増加して、LDLの取り込みやendocytosisによる細胞内コレステロール代謝およびtranscytosisによる細胞下へのコレステロール移送が活発化していることが明らかになった。 次にMVECに取り込まれたLDLはどのような代謝や修飾を受けるか検討した。ferritin存在下で血管内皮細胞に取り込まれたLDLは酸化修飾を受けることが、免疫染色やチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)を検出することで明らかとなった。酸化LDLおよびferritinは細胞内に顆粒状に存在していた。特に大型や多核を有するバリアント内皮細胞では酸化LDLの生成が大であった。LDL酸化はキレート剤や抗酸化剤投与により完全に抑制された。動脈硬化表面に多いバリアント内皮細胞は、LDLの取り込み亢進とLDLの細胞内酸化により動脈硬化の発生進展に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 現時点では遺伝子異常とLDLの取り込み亢進や過酸化反応との直接的な関係は明らかにできていないが、これらが独立した変化なのか関連した変化であるか更に検討していく。
|