(1) 細胞間接着を維持しつつ集団として遊走する分子機構の解析 TPA(tetradecanoyl phorbol acetate)により誘導されるcohort migration(CM、細胞接着を保った細胞集団での遊走)では、E-cadherin/catenin complex(Ecc)のチロシンリン酸化の上昇が認められたのに対し、hepatocyte growth factor/scatter factor(HGF/SF)によるCMではEccのチロシンリン酸化レベルには変化は無く、Ecc中のα-cateninの減少を認めた。形態学的には、HGF/SFによるCMにおいても、細胞下部に限局した細胞間隙の開大を認め、先導葉の伸展が可能となっていた。α-cateninを介する細胞骨格(actin filament)への結合が減弱し、細胞下部での細胞間隙の関大に至るものと考えた。 (2) in vivoにより近い環境設定における集団遊走の惹起機構の解析 ヒト大腸由来CCD18線維芽細胞は細胞密度依存性に、HGF/SFによって惹起されるヒト大腸癌細胞株のCMを増強し、その作用はCCD18の単独培養上清中には認められず、CCD18と癌細胞との共培養上清中に認められた。腫瘍細胞に対して遊走惹起活性を持つ増殖因子の中で、TGF-β1のみがHGF/SFによる癌細胞のCMを相乗的に増強した。CCD18細胞からのTGF-β1分泌は癌細胞の培養上清により刺激され、両細胞共存下でTGF-β1は増加しており、CCD18細胞によるCMの増強効果は抗TGF-β1抗体にて抑制された。またこのTGF-β1刺激により、癌細胞ではfibronectin(FN)、特に細胞運動を促進することで知られるEDA部分を含むFN(EDA+FN)の産生が亢進し、抗FN抗体によりTGF-β1による増強効果は強く抑制された。HGF/SFによる癌細胞の遊走の惹起において、TGF-β1と未知のその分泌促進因子を介して癌細胞と線維芽細胞間の相互作用が関与していることが示された。
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