研究概要 |
(1)細胞間接着を維持しつつ集団として遊走する分子機構の解析 hepatocyte growth factor/scatter factor(HGF/SF)により誘導されたcohort migrationにおいては、遊走細胞間下部における細胞間接着の部分的解離が必須である。HGF/SF刺激により、この接着を司るEーcadherin/catenin複合体にIQGAP-1が結合し、E-cadherin をアクチン骨格に接続するαーcateninが複合体から解離することを、免疫沈降法を用いた解析によって明らかにした。これに一致してIQGAP-1は細胞質可溶性分画より膜分画へ移動することも確認された。共焦点レーザー顕微鏡を用いて、そのIQGAP-1がまさに解離している遊走細胞間下部の細胞膜にそって分布していることも認められた。現在、このIQGAP-1を制御する dominant active/negative Racl,cdc42 を強制発現させた細胞を用いて、IQGAP-1の作用を確認すると共にその制御の可能性を検討している。 (2)集団遊走時における matrix metallopoteinaseの特異的発現様式 ヒト大腸癌細胞株Lー10においてはmRNAレベル、蛋白レベル共にgelatinase A(GelA),membrane type-1 matrix metalloproteinase(MT1-MMP)の発現を認めた。免疫細胞化学的に両プロテアーゼは、非刺激時の細胞島においては主として細胞膜に分布するが、HGF/SFにてcohort migrationを誘導すると、遊走細胞シートの先端のみに(先頭細胞の先導葉を主として)特異的に強く発現し、後続の細胞集団にはほとんど認められなかった。この先頭細胞特異的な発現パターンは、(抗カドヘリン抗体+HGF/SF)にて誘導される細胞分散(scattering)時には認められず、分散する個々の細胞に発現していた。従って先の発現パターンは遊走細胞シートにおける細胞間接着により主として制御されていると考えられる。この遊走細胞集団の先頭に発現するGelA、MT1-MMPにより gelatin matrix(GM)は分解を受けたが、それは先導葉部分に整然と放射状に認められ、GMを細胞遊走に適した形へとrearrangeしたものと考えられた。また、このMMP活性をその阻害剤BB94にて抑制すると、遊走は顕著に阻害されたので、この先頭に発現するMMPによるGMのrearrangentはcohort migration において非常に重要な役割を担っていると考えられる。
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