研究概要 |
(1)細胞間接着を維持しつつ集団として遊走する分子機構の解析 Hepatocyte growth factor/scatter factor(HGF/SF)により誘導されたcohort migration(CM、細胞接着を保った細胞集団での遊走)においては、遊走細胞間下部における細胞間接着の部分的解離が必須である。HGF/SF刺激により、この接着を司るE-cadherin/catenin複合体にIQGAP-1が結合し、E-cadherinをアクチン骨格に接続するα-cateninが複合体から解離することを明らかにした。現在、このIQGAP-1を制御するdominanit activ/negative Rac1,cdc42を強制発現させた細胞を用いて、IQGAP-1の作用を確認すると共にその制御の可能性を検討している。(詳細は10、11年度報告書を参照) (2)in vivoにより近い環境設定における集団遊走の惹起機構の解析 HGF/SFによって惹起されるヒト大腸癌細胞下部のCMが、正常線維芽細胞(ヒト大腸由来CCD18)の共存により増強されることを明らかにした。これは癌細胞由来の未知の液性因子により、線維芽細胞からのTGF-β1分泌が亢進し、これが細胞運動を促進することで知られるEDA部分を含むfibronectin(EDA+FN)の産生を増加させるという機序によるものであった。癌細胞のCMも癌細胞と線維芽細胞間の相互作用により影響されることを示したものである。(詳細は10年度報告書を参照) (3)集団遊走時におけるmatrix metalloproteinaseの特異的発現様式 ヒト大腸癌細胞株L-10,SW837において、HGF/SFにて誘導されたCMでは、遊走細胞シートの先頭の細胞の先導葉部分にのみ強くgelatinase A(GelA)、membrane type-1 matrix metalloproteinase(MT1-MMP)を発現し、そのMMPによりgelatin matrix(GM)を細胞遊走に適した形へとrearrangeしながら遊走することを明らかにした。個々の細胞での遊走と異なり、CMでは遊走細胞間相互の細胞接着により物質発現が制御されていることを示した初めての報告である。(詳細は11年度報告書を参照)
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