本年度(平成11年度)は、まず平成10年度に作成を終えていたPKCδ高発現初代培養神経細胞に加えて、対照コントロールとしてキナーゼ活性を持たないPKC-KN高発現細胞、PKCα高発現細胞を作成した。これらのコントロール細胞とPKCδ高発現細胞に過酸化DAGを処理したところ、δ分子高発現する細胞でのみ、神経突起のビーズ状の変性を伴った神経細胞死が引き起こされた。更に、このビーズ状に変性した神経突起の超微形態学的検討を行ったところ、ビーズ結節部では微小管の崩壊と共に神経内分泌顆粒の輪送障害、異常貯留が観察された。次に、過酸化DAGにより誘導される神経細胞傷害機構を明らかにするために、MAPキナーゼカスケードを中心に検討を行ったところ、過酸化DAG処理によりMEK(MAP kinase kinase)、Erk(MAP kinase)といったMAPキナーゼカスケードのキナーゼ蛋白のリン酸化が亢進していることが明かとなった。更に、抗リン酸化tau抗体を用いてtau蛋白のリン酸化状態をImmuno-blot法により検討したところ、tau蛋白の181番目のthreonine(Thr181)が特異的にリン酸化されていることが判明した。また、過酸化DAG処理により傷害が引き起こされたPKCδ高発現細胞の変性した神経突起のビーズ結節部には、リン酸化tau蛋白の強い局在性が認められた。以上の結果から、過酸化DAGによる神経細胞傷害は、過酸化DAGによるPKCδ特異的活性化→MAPキナーゼカスケード活性化→tau蛋白の過リン酸化(Thr181)→微小管崩壊、の経路を経て引き起こされていると結論された。
|