研究概要 |
近年がん・間質相互作用に関連した多くの分子が同定されている。本研究では特にがんの転移との関連が注目されている血管内皮増殖因子ファミリー(VEGF-A,VEGF-B,VEGF-C,VEGF-D)の遺伝子発現をヒト肺腺がん外科材料で検討し、さらにリンパ節転移との関連を調べた。ヒト肺がん60例(リンパ節転移なし33例、転移あり27例)、非がん部の正常肺9例よりRNAを抽出し、遺伝子発現の解析を定量的RT-PCR法にて行った。結果の要約は以下の通りである。 (1)VEGF-A,B,C,Dいずれも肺腺がん60症例全例において検出しえた。正常肺とがんの比較では、意外なことにVEGF-A,B,C,Dいずれも、がんでは正常肺に比し発現レベルが低く、特にVEGF-Dのがんにおける低下が顕著であった。VEGF-Dの発現低下は腫瘍径の増加と逆相関を示した。VEGF-Aに関しては、正常肺の平均を越える高発現例が9症例見られたが、うち4例は転移(-)群に属し、特に1例は非浸潤性発育を示す極めて早期の症例であった。(2)単因子として見た場合、VEGF-A,B,C,Dいずれもリンパ節転移の有無との関連は弱く、リンパ転移(+)群においてVEGF-A,B,Cの発現が高い傾向、VEGF-Dの発現は逆に転移(+)群で低い傾向を認めた。VEGF-CとVEGF-Dは同一の受容体に作用するため、その発現を二変量散布図で解析したところ、VEGF-C高発現・VEGF-D低発現群においてリンパ節転移(+)の症例、あるいはリンパ管侵襲(+)の症例が多かった。(3)リンパ節転移(+)の症例に関して、転移巣の最大径と原発腫瘍におけるVEGF-A,B,C,Dの発現レベルの関係を検討したところ、最大径が1cm以上の症例は1cm未満の症例に比し、有意に原発巣でのVEGF-A発現が高かった。
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