オオサシガメ唾液線由来の血液凝固インヒビター、プロリクシンS、をバキュロウイルスをもちいて昆虫細胞で大量発現させた。この組み替え蛋白を用いて種々の凝固因子との結合実験、再構成系での酵素活性阻害実験をおこない、プロリクシンSの凝固阻害機構をほぼ完全に解明することができた。1、プロリクシンSは凝固第IX因子および活性化後のIXa因子に特異的に結合する。2、この結合には生理的濃度のカルシウムイオンの存在が必須である。3、プロリクシンSの凝固第IX因子への結合は、XIa因子及びVIIa/組織因子/リン脂質複合体による活性化を阻害する。4、IXa因子へのプロリクシンSの結合はリン脂質への結合を阻害し、これによりIXa/VIIIa/リン脂質複合体(Xase complex)の形成が阻害される。以上の結果(3、4)よりプロリクシンSは内因系凝固ばかりでなく外因系凝固も同時に阻害することが新たに明らかになった。5、IX因子から細胞膜結合部位であるGlaドメインを除くとプロリクシンSが結合できなくなった。このことより、プロリクシンSの結合部位がGlaドメインであり、カルシウムイオンの結合によるこのドメインの構造変化を認識して結合することが推測された。 今後、プロリクシンS/Glaドメイン複合体を結晶化する予定である。すでにGlaドメインを化学合成した。これとバキュロウイルスをもちいて大量発現させたプロリクシンSを用いてプロリクシンSの構造と機能のさらに詳しい解明をおこないたい。
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